アニメ『ラブライブ! 虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会』(以下、アニガサキ)が面白いです。アニメとしての出来は、たぶんシリーズで一番。
ただ、「面白い・面白くない」は多分に個人の好みによるところが大きいので、「よく作られている」という点を軸に思うところを書いてみようと思います。
『アニガサキ』の特徴としてまず、テーマあるいはコンセプトがわかりやすいというのが挙げられると思います。
「テーマ」の捉え方はいろいろあると思いますが、シリーズを通して繰り返し言われていることをまとめると、「みんなちがって、みんないい」ですね。
ところで、このテーマは、ソロ活動中心の企画としてスタートした『虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会』の中で、ひとつの効果をもたらしています。それは、各メンバーがお互いの「違い」を全て肯定することで、本質的にメンバー同士の「対立」が生まれないということです。
『アニガサキ』は「それぞれの異なる“大好き”を全て肯定する」ところからストーリーが始まるので、「対立」とは無縁であるべきなんですが、全編を通してそれが徹底されることで、ひとつの「安心感」が生まれています。青春部活物の作品において「対立と融和」はお約束のひとつで、わりと簡単に山場を作れるネタでもあるので、ついついこれを取り入れてしまう作品も多いのですが、「展開を優先してキャラを犠牲にする」ことも往々にして起こりがちです。(スクスタ炎上問題のキモは、たぶんここかなと思います)
『アニガサキ』はこの「対立」を徹底的に避けることで、企画の基本コンセプトをきっちり守っているという点を、非常に好感しています。
次に、とにかく展開がわかりやすい。
第1期は、9話使って9人の「大好き」を描き、第10話からはそれぞれの「大好き」が「ひとつの形(SIF)」になっていく様子が描かれています。そして第2期は、9話使ってランジュ、ミア、栞子、そして侑の「大好き」を描き、第10話からは13人の「大好き」が目指す先を描いています。とてもわかりやすい。
第1期はオムニバス形式、第2期はストーリー形式と表現方法は異なるのですが、全体の基本構成はほぼ同じです。これも、見る側に「安心感」を与える一助となっていると思います。
『アニガサキ』はとにかく、どの瞬間を切り取っても作品の方向性が明確なんですよね。第1期3話の「だったら、ラブライブなんて出なくていい!」という、タイトル全否定とも取れる印象的な台詞でこの作品の方向性が強く印象づけられたのですが、第4話以降もとにかくブレなかったのが良かったと思います。
物語において、「展開をイメージできる」というのはとても重要です。よく「予想できない展開」という表現がありますが、言葉通りの意味で「予想できない展開」の作品は駄作です。「展開を予想できない」というのは、言ってみれば「推理に必要なヒントを何も提示しない推理小説」のようなもので、見る側にとってストレスでしかありません。「意外性」というのは「予想とのギャップ」から生まれるものなので、「予想できない展開」というのは「予想しても(良い意味で)期待を裏切られ続ける展開」と言い換えることができます。
つまらない作品というのは、だいたい「何がやりたいのかよくわからない」とか「どうなったら物語が終わるのかよくわからない」ということが多いのですが、『アニガサキ』は(とくに第1期は)侑を軸に作品の方向性が常に示され、かつそれがブレないので、視聴者に終始「安心感」を与えています。
ただ一方で、「安心感」に振れすぎたことで、このひたすら「大好き」を叫び続ける展開に共感できれば「面白い」と感じられると思うのですが、あまりに安定しすぎて展開に抑揚が欠けてしまい「つまらない」と感じる人も居るだろうなぁ……というのは、想像に難くないところです。
その意味で『アニガサキ』は、わりと見る人を選ぶ作品かな……と感じています。諸手を挙げて「名作」と言えるかというと、ちょっと違う気がする。私自身、「出来」はシリーズで一番だと思うものの、「魅力」という観点ではやはり無印第1期の方が上だと思っています。
でも、だからと、『アニガサキ』が「もっとこうだったら」と思うかというと、そうでもないんですよね。おそらく『アニガサキ』は、『虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会』としてほぼ完璧に近い正解の形を見せてくれたと思います。それでも『アニガサキ』を万人にとっての「名作」と言い切れないのは、シリーズで唯一、アニメがオリジナル(原作)でないという、(ラブライブ!における)『ニジガク』の特殊性に負うところが大きい気がします。
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